パール兄弟とつボイノリオと私(追記あり)
11/6に名古屋今池のライブハウスTOKUZOにて、二人パール兄弟(サエキけんぞう&窪田晴男)のライブがありました。
学生時代、パール兄弟や、ご著書を通じてサエキけんぞうさんを師と仰いでいたワタクシ。
特に名盤レビューなどをまとめた『ヌードなオニオン』(河出書房新社刊)からは、音楽のみならず物事を斜めに見る楽しみを学びました。
なんやかんやで20年ほど経ち、すっかり中年となったワタクシは、職場のスタジオでサエキさんに出会ったのです。
ファンぶりを知っていたディレクター女史によって、つボイノリオさんの番組にゲスト出演されたサエキさんに挨拶させていただく機会を得た次第です。
実はサエキさん、僕がインタビューと構成、注釈等々を担当した書籍『つボイ正伝』(扶桑社刊)を読んでくださっていました。
- 作者: つボイノリオ
- 出版社/メーカー: 扶桑社
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職場にはライター業などやるセクションもルールもないのですが、先輩のアナウンサーで出版されている方も多く、前例から「書いてよし」という流れで生まれた書籍です。
プロアマの違いはあれど、つボイ研究をフィールドとする師弟としてお付き合いいただくことになりました。
その後、東京支社スタジオでプロデュースしたラジオ番組にも数回ご出演いただいたこともあります。
4年前にTOKUZOでつボイさんを招いてライブを行ったサエキさん、今回はなんと窪田晴男さんとの「二人パール兄弟」で、つボイさんが特別ゲスト。
サエキさんから直接お誘いいただき「これ以上の俺得がどこにあるんだ」ということで足を運ばせていただいた次第です。
「金太の大冒険」という必殺のロングセラーを持つつボイさんですが、2006年からiTunesで4つの新作(新録音)を発表しています。
実はこれらの曲、つボイさんから見てシモネタ耐性が強く近場で安く使えるワタクシがアレンジをさせていただいてます。
当ブログ的なことを言うと、ほぼ全て(カオシレーターを除き)KORGのTRITONで作りました。
その中で、最も話題となったのがこの曲。
勇者マンコ・カパックが、部族同士の戦いを制してインカ帝国を成立し、初代の王となるまでを描く、7分超の大作であります。世界でも珍しい、音楽版RPGとも言えましょう。
つボイさんの「あのぉ、ペルー音楽みたいなアレンジで行きたいんですよ」のひと言で、慌てて身重の妻にフォルクローレのオムニバス(2枚組で1,000円)を買ってきてもらい、気に入った楽曲をいくつか聴き込んで構成を組み立て、なんとかそれらしく仕上げました。
iTunesが日本でサービスを開始しておよそ1年後の2006年9月、妻の臨月にリリースされたこの曲は、ワールドミュージックのカテゴリーで1ヶ月連続のデイリー首位となりました。
「吉田松陰物語」以来30年ぶりの、つボイノリオ・アカデミック路線、そしてマンコへの想像を絶するバイオレンス描写、マンコの男気、壮絶な戦いから国を興し「王マンコ」として慕われるまでの人生が大きな話題となりました。
さらに13年後のこの日、アレンジの師として一方的に勝手に尊敬していた窪田晴男さんの素晴らしい演奏によって、ワタクシの書いたイントロのメロディが再び蘇ったのでした。
高校時代から学生時代を支えてくれたパール兄弟と、一介のサラリーマンの自分にクリエイターとして機会を授けて下さったつボイノリオさん。
人生の大きなふたつの点がひとつに繋がった瞬間であります。
こんな幸せなことがあるでしょうか。
みんながひれ伏すマンコ 王マンコ
みんなが大好きマンコ 王マンコ
実はこの最後のフレーズ、つボイさんが締めに困っていたので、アイディアを出させていただきました。
その記憶を辿りながら、窪田さんたちの素晴らしい演奏を聴き終えると、あまりの感激に涙を流しておりました。
おそらくこの曲を聴いて感涙まで至ったのは、世界広しと言えど、ワタクシくらいのものでしょう。
長生きして良かった(50歳)。
改めて、お招きいただいたサエキけんぞうさんに感謝いたします。
(追記)
僕が「インカ帝国の成立」の性交成功で調子に乗り、当時の編成デスクに取り入って生まれて初めてディレクションした番組が、まだニコ動に残っていましたので、謹んで紹介いたします。
KORG Gadgetで「犬神家の一族 愛のバラード」
Toraiz AS-1だTHEREMINIだとニッチ・オブ・ニッチを驀進するワタクシですが、久々にみんな大好きKORG Gadgetでカヴァー曲を作りました。
今回のお題となった『犬神家の一族』(愛のバラード)は、僕がアレンジを志すきっかけとなった曲で、40数年来の憧れであります。
ダルシマーのオクターブ上で鳴っているシンセリードを除き全て生楽器。原曲はどう聴いても数十人規模のミュージシャンによる演奏です。
KORG M1に始まり、手に入れたPCMワークステーションで挑戦してきたんですが、パート数や発音数で挫折に次ぐ挫折。
今回は満を持してKORG Gadgetで再現しようというわけです。
KORG Gadgetは特にアコースティックの追加音源の出来がよく、最近のアップデートでは個々のトラックにエキサイターが使用できるようになりました。
これまで生っぽい編成の曲はKORG TRITONで作っていたんですが、今ではKORG GadgetとMIDIキーボード(今回はKORG microkey)さえあれば事足りてしまう状況です。
とは言え、今回はドラム2パート、ベース、アコギ、ピアノの他、リードで4トラック、ストリングスで4トラック、ブラス系で4トラックに加え、音切れ不可避のハープも重要な役割を果たしています。
ここまでパートが多いとiPhoneのパワーが追いつきません。10トラックを超える頃にはノイズ発生→無音→都度メモリ開放の悪戦苦闘に見舞われます。
そこでアレンジがある程度仕上がったところで、パートをリズム隊、リード、ストリングス、ブラスの4つに分けてプロジェクトを保存し、エクスポートしたWAVファイルをHarmonicdogのMultiTrack DAWで重ねることにしました。
トータルコンプはMultiTrack DAW搭載のものを使用しました。
実はこの曲に取り組んだきっかけは、THEREMINI用にカラオケを作ろうとしたことでした。
MIDIカラオケ風になるのが嫌で、音に凝り始めたらフルコピーが目標になり、結局2週間かかってしまいました。
今回は夏休みの自由研究として、その成果をお知らせいたしました。
THEREMINIに隠し波形があった!
先日moog THEREMINIの音作りについて投稿しましたが、その後海外のフォーラムを読んでいたら驚くべき内容が…
上から8番目の書き込みで、Gary Honisさんという方が、自ら作成した音色ライブラリーを公開されているんですが、ここにさり気なく"all using the 12 hidden waveforms"とありました。
つまり、THEREMINIにはデフォルトの7波形以外に、12個の「隠し波形」があったんですよおおおお!!(©ターザン山本)
Honisさんがライブラリーを公開しているページにその全貌が。
このページの2番目の項目"Listen to 12 Extra Waveforms"で、そのパッチが公開されています。
公式エディターで読み込んで、鼻息荒くTHEREMINで鳴らしてみます。
確かに、異なる波形が12個ありました。
どこに波形があるんだろうと思い、前述のHonisさんのページの下の方にある"Virtual MIDI Sliders"をダウンロード。
このアプリは、CCの各パラメーターをスライダーで操作できるもの。THEREMINIの取説によれば、波形選択はCC90にあります。
デフォルトの値は0のサイン波から、6のEtherwaveまでとなっています。どうやら7〜127の間に別の波形があるようです。
"Virtual MIDI Sliders"は随分プリミティブというか、古めかしいUIですが、Win10のPCでもしっかり動作しています。
そして、[file]メニューから同じHonisさんのページで配布されている"ThereminiCCSlider.vms"を読み込ませます。
すると、6番フェーダーに"Waveform"の文字が…
適当な音色をチョイスしておいたTHEREMINIとUSB接続&MIDI設定して、このフェーダーを弄ってみると、確かに7番以降にいろいろあったりなかったり。
まるでラジオのチューニングの様相ですが、CC90では7-9、13-18、21、26-27、43、51、60、73-74、86-89、93-97、101、103、108-109、112、124-127の値でデフォとは明らかに違う波形が確認できました。
個人的には18、86、87あたりがお気に入りです。
中にはボリュームが低すぎて使えそうもないものや、同じ波形も混ざってますが、とりあえず疑問は捨てて、本体に残しておきたいものをひとつチョイスしておきます。
ここからは、この波形を使った音色をTHEREMINI本体に記憶させる手順など。
まずその前に、アプリのフェーダー番号(Waveformだけなら"6")を右クリックして青色にします。
さらに2ページ目の8番フェーダー(Save Preset)の値を127にした上で、同じように右クリック→青色にしておきます。
これにより本体に記憶させたいパラメーターを選択しておきます。
ちなみにこのページ2には、純正エディターにはない、ノイズに関するパラメーターもあります。
そしてMIDIメニューから"Send Selected Controllers"を選びクリック。
この操作で音色が書き換えられてしまうので、前もって消しても問題ない音色を選んでおきましょう。
そして"Virtual MIDI Sliders"を終了し、公式エディターを立ち上げ、先ほど書き換えた音色を再度呼び出します。
なぜか波形名が"HOLLOW"など既成の波形名(場合によって空欄)になりますが、本体を鳴らして音色が変わってなければ無問題。
フィルターやエフェクト等を必要に応じて再設定して(Virtual MIDI Slidersでも変更可能)リネームの上セーブ。
これで作業完了です。
それにしても。
moogはどうしてこれらの波形を隠しているのか、と疑問が湧くんですが、「まあせっかく作っちゃったし、マニアが探しに来るかもしれないから置いとこうか」というサービスでしょうか?
それと"Virtual MIDI Sliders"でノイズ関連のパラメーターが弄れるのは大きな発見でした。
さらに音作りが楽しくなるのは間違いありません。
Gary Honisサン、ドモアリガト。
現場からは以上です。
THEREMINI テルミン・モード備忘録
当ブログからまったくシンセ系の話題が出なくなってお嘆きの貴兄に追い討ちをかけるように、またもmoogのTHEREMINIについてエントリーを投下する不幸をお許しください。
ぶっちゃけ、和洋問わずシンセ関連のサイトやツイッターアカウントは毎日チェックしてるんですけど、ネタにしたくなるような機種がないんですよ。
ま、その手のアレがナニな皆さんはしばしお待ちを。
実はわかってなかったテルミン・モード
さてTHEREMINIを購入して、その日のうちにファームウェアをアップデートしたのはいいんだけど、途中から追加された機能「テルミン・モード」については、いろいろ苦労させられた次第。
試した当初は「お、テルミンみたいじゃないか」と思ったわけですが、後日いじってみたら、アンテナのレンジがどんどん狭くなったり、ピッチの調整が効かなかったりと、改めてイチからキャリブレーションする羽目になったわけで。
そもそもこのモードは、日本語版どころか本国のマニュアル(PDF)にも未だ掲載されておらず、何をどう操作すべきかよくわかりません。
最新アップデートすら、もう4年近く前のことなので、動作が理解できずTHEREMINIがインテリア化してしまった方に、ささやかながら研究結果をお伝えできればという所存でございます。
テルミン・モードでできること
そもそもテルミン・モードとはなんぞや、というハナシですが、これまでEtherwaveなど従来のテルミンに慣れた人向けの機能です。
ノーマル状態のTHEREMINIでは、SETUPメニューで音程のレンジ(最低音と最高音)を設定できるんですが、困ったことにキャリブレーションで最低音・最高音の鳴るアンテナからの位置も別で設定しなければいけません。
「困ったことに」と書いたのは、この設定が別々になっているからです。
例えば重要な曲アタマのポジションが思ったところに来なかったり、鳴らしてみると指を伸ばしても変化幅が1オクターブ行かなかったりした場合、いちいちレンジをボタンをポチりながら微調整しないといけなかったのです。
これが従来のテルミン愛好家から「もぉ!設定が超メンドーぷんすか」と罵倒される原因でもありました。
このテルミン・モードでは、数はEtherwaveと同じなれど、まるで役割の違うノブのうち2つで、ピッチとボリュームの微調整ができるなど、使い勝手が格段に向上する機能が使用できます。
- PITCH CORRECTIONノブの機能がピッチアンテナの調整に変わる。ゼロポイントを作るアレ、と言えばわかるでしょうか。
- AMOUNTノブの機能がボリュームアンテナの調整に変わる。
- SCALEボタンを押すと、ピッチの変化幅をオクターブ単位(1-7Oct.)で可変できる。
- ROOTボタンを押すと、オシレーターのピッチを前後1オクターブ可変できる。
正しくキャリブレーションが行われていれば、ノブひとつでピッチ幅を調整できる、これは大きな改良です。
ちなみに最後のオクターブ可変機能は、Etherwave Proにしか搭載されていないもので、低音パートと高音パートの切り替えに超便利なんですが、ピッチ幅が大きく変わる場合があるのでご注意を。
まずはモードを設定
テルミン・モードはSETUPボタンを複数回押してADVANCED SETUPメニューを出し、EFFECTボタンでエディットに入ります。
上から3番目にTheremin Modeとあるので、ここをONにします。
エディットメニューから出たら、この画面になると思います。
通常の画面と何ら変わりません。
またこの状態でPITCH CORRECTIONノブを回しても、ピッチシフトが変わるだけ。
AMOUNTノブもディレイのミックスが変わるだけの平常運転です。
ここでSETUPボタンを押すと…
画面に(Pitch Volume)の表示が出ます。
これでテルミン・モードに入りました。
前述した4つの機能が、これで使えるようになります。
モード突入時の注意など
また、このモードで弾いていて「ディレイ増やしたい」「ピッチシフト入れたい」という時は、再度SETUPボタンを押せば通常モードに戻ります。
これがボクチンはわからなかったところ。混乱させられましたよワッハッハ。
テルミン・モードでのピッチ調整は、もともと設定してあるピッチレンジを変える役割がありますが、従来のテルミン同様、ゼロポイントからの反転(アンテナに近づくほどピッチが低くなる)現象が起こりますので、設定には要注意。
一方AMOUNTノブによるボリュームアンテナの調整は、左端のVOLUMEノブと合わせて行うことになると思いますが、THEREMINIはもともと変化幅が狭いので、正直微妙な感じです。
キャリブレーション時のボリュームアンテナ調整も見直した方が効果が上がるかもしれません。
ちなみにテルミン・モードONの時は、SETUPでの設定やキャリブレーションの入り方が変わります。
SETUPボタンを長押しすると、このような画面になります。
SETUPボタンとSCALEボタン、またはROOTボタンの同時押しで希望の機能に入れるのでご安心を。
とにかく使うと便利な機能ですが、SETUPボタンで通常モードと切り替わるというのがわからないと「何にも変わってないですやん」とぷんすか増大です。
使用上の注意をお読みの上、正しくご活用くださいませ。
テルミン史が激変?検証“Good Vibrations”
素朴な愚問
「テルミンが使われた代表的な曲は?」という質問に、ビーチボーイズの”Good Vibrations”を挙げる向きも多いと思います。
ビーチボーイズが三度の飯並みに好きなボクチンも、そんな回答をしていたことがあります。
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しかし、三度の飯以上にテルミンへ熱を入れてしまうと、ちょっとした疑問が湧いてくるのです。
「こんな綺麗な音色のテルミン、どこにあるんだ?」
この曲や、同時期に録音された”I Just Wasn’t Made For These Time”(『ペットサウンズ』収録)で聴かれるテルミンのような音は、限りなく正弦波や三角波に近い、丸い音色がします。
この曲が録音されたのは1966年頃。
その頃レフ・テルミン博士から特許を取得して作られたRCAテルミンは発売から30年経っており、それ以外ではシンセサイザーを手掛ける前の若きボブ・モーグ氏が作っていたようなテルミンしか流通していなかったはずです。
RCAテルミンはクララ・ロックモアさんの演奏でもわかるように、鋸歯状波(ノコギリ波)に近い音色で、ビーチボーイズのものとは全くの別物。
モーグ氏の製品については、YouTubeにアップされた音色を聴く限りRCA社製に近いように感じます。
じゃあ、あの音はいったい何だ?
何弾いてんのマイク・ラブ
ビーチボーイズが”Good Vibrations”を演奏している、1967〜68年頃と思われるスタジオライブ映像にそのヒントがあります。
曲を作った天才ブライアン・ウィルソンは、アルバム『SMiLE』崩壊による引きこもり状態のため欠席です。
それはさておき、サビのパートでは、普段楽器を持つことのないマイク・ラブが、指を左右にスライドさせながら謎の楽器を演奏しているのがわかります。
これが一般にテルミンによるものとされるフレーズであり、レコードの音色とも一致するのです。
この映像はバンドの自伝映画『アン・アメリカン・バンド』(1985)で観たのですが、後にテルミン説が出た時に「レコーディングでは違うのかな?」くらいにしか思わなかったのですが…
Electro-Thereminとは
いろいろ調べたら、この「エレクトロ・テルミン」なる楽器に辿り着きました。
開発したのは、トロンボーン奏者のポール・タナー氏。なんとグレン・ミラー・オーケストラに在籍していた経歴があります。
そもそも電子楽器であるテルミンに、なんでまた「エレクトロ」を重ねたのかは謎ですが、ひとまず概要を和訳してみました。
Electro-Thereminは、1950年代後半にトロンボーン奏者のPaul Tannerとアマチュアの発明者であるBob Whitsellによってテルミンの音をまねるために開発された電子楽器です。
この楽器はテルミンと似たトーンとポルタメントを備えていますが、コントロールメカニズムが異なります。
木箱の中にピッチを制御するノブを持つ正弦波発生器が置かれ、ピッチノブは、箱の外側のスライダーにひもで取り付けられていました。
プレイヤーはスライダーを動かし、ボックスに描かれたマーキングの助けを借りてノブを希望の周波数に回します。
まあ、概ねGoogle翻訳なんですけども、なんとなくスライダーを動かすことで、正弦波のピッチを変化させる仕組みということはわかります。
この「エレクトロ・テルミン」は、1958年以降、テレビや映画のサントラを含む様々なレコーディングに多用されたようです。
モンド系の名盤として知られるこのアルバムでは、ジャケットにも堂々と”Paul Tanner Electro-Theremin”と記載されております。
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RCAテルミン以降存在を忘れ去られたテルミンが、1950年代からスペースエイジ・バチェラー・パッド・ミュージックや映画の効果音などで脚光を浴びた、というのが界隈の定説ではあります。
しかし60年前後にリリースされた音源には、RCAとは似ても似つかない音色のものが多くあり、長らく疑問に思っていました。
それらがタナー氏の「エレクトロ・テルミン」によるものだった、とすれば合点がいきます。
テルミンと認めるか否か
”Good Vibrations”に話を戻すと、そして研究書として信頼の厚い『ザ・ビーチボーイズ・コンプリート』(VANDA刊)において、”Good Vibrations”の録音にテルミン奏者としてタナー氏が参加していたことが掲載されています。
このセッションでタナー氏が弾いたのが「エレクトロ・テルミン」であることに疑いの余地はないでしょう。
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ポール・タナー氏と写る「エレクトロ・テルミン」と、マイク・ラブがスタジオライブで使っているものとは筐体の厚みが大きく異なります。
後者は現在のEtherwaveより遥かに薄く、オシレーターが入る余地すらなさそうですが、操作を見るに、これはリボンコントローラーの一種ではないかと思われます。
いずれにせよ、ビーチボーイズのレコーディングにおいて(誰もが認知できる形状の)テルミンが使用されなかったことは明確で、じゃあ映画『テルミン』でのブライアン出演はなんだったのかということには、この際目を瞑りましょう。
問題はひとつ。
音階の遷移がポルタメントであるものの、「エレクトロ・テルミン」は手で直接操作します。
アンテナと人体の間の静電容量をコントロールするわけではないこの楽器を、果たしてテルミンの一種と見てよいのか?
これは議論が大きく分かれそうな悪寒もします。
「エレクトロ・テルミン」を肯定すれば、テルミンの定義が大きく揺らぎます。アナログ音源をポルタメントで鳴らすのであれば、シンセサイザーも同類ですし、音作りを前提としない条件がつけば、スタイロフォンも含まれることになります。
一方でこれを否定してしまうと、楽器としてのテルミン史において、1950年代から80年代におけるほとんどの記述が(西洋におけるテルミン博士の存在同様に)失われる可能性もあるわけです。
エレクトロ・テルミンを使用した楽曲が、ジャンルとしてテルミン物に括られてしまっている以上、これを覆すには何十年もかかります。
きっと世界中のテルミンユーザーの中には、"Good Vibrations"をきっかけとした方も多いでしょうし、今もなお「あのフレーズはテルミンだ」と信じている方もいるでしょう。今さらなハナシではあります。
だったらもう、エレクトロ・テルミンもTHEREMINIも全部ひっくるめて全部テルミンにしといたらええやん、という、THEREMINIユーザーの自分的には我田引水な提唱ではあります。
Electro-Thereminのその後
時は流れ、ブライアン・ウィルソンはドラッグなどによる不健康な生活を脱し、1999年には自身最高のヒット曲”Good Vibrations”をライブ演奏するようにまで復活しました。
この動画の4:10あたりで演奏されているのは、”Tannerin”なる楽器。1999年、ブライアンのツアー用にトム・ポークという人物が「エレクトロ・テルミン」を模して開発したもので、タナー氏の名を織り込んだネーミングからもリスペクトが感じられます。
ただ、このライブなどで聴ける音色はややノコギリ波に近いようです。
それでは、タナー氏が作ったオリジナルの「エレクトロ・テルミン」はどうなったのか。
Wikipediaによれば、60年代後半に聴覚学の研究用に病院へ寄贈されたとのことです。一点モノだったんですね。
手放した理由については、シンセサイザーの登場でターナー氏自身がその役目を終えたと感じたから、とのこと。
60年代半ばにシンセサイザーの活躍の場を大学の研究室から音楽スタジオへ広げた最大の功労者が、誰あろうボブ・モーグ氏なのですから、なんとも皮肉な話ではありますな。
シンセサイザーとしてのTHEREMINI
つい先日、moog待望のフルアナログ・ポリシンセMoog Oneの国内販売が決定し、発表された価格に国民総溜息だの、いろんなニュースはありますが…
当ブログは「新機種情報ガイド」を銘打ってるわけでもないので、基本的にはワタクシの興味の強い順に記事を粛々と書いております。
今回もmoogとは言いつつも、残念ながら5年も前に販売された、しかも鍵盤付きシンセサイザーではないものについてまたもエントリーを続けます。
ミルコ・クロコップに「おまえは何を書いているのだ」と言われようと、興味が強いのだから仕方ありません。
まあ、だけどもだ、今回はシンセサイザーとしての側面から書くので「へぇ、こんなシンセがあるんだ」くらいには思ってもらえると思います。
Moog Oneとは対極にある、同社製最安値ハードであるTHEREMINI。
シンセマニアに伝わるように言えば、音源部にAnimoogのエンジンを積み、鍵盤の代わりにテルミン式インターフェイスを採用したDSPシンセです。
iOS専用シンセアプリであるAnimoog、X-Yパッドによるモジュレーションに注目が集まりましたが、その出音の良さも絶賛されておりました。
本機には、その特徴的なモジュレーションサウンドや、Etherwaveサウンドなど32音メモリーされています。
ただし、単体での音作りはできません。
その代わり、本体をPC(またはiPad)にUSB接続し、無償で配布される専用エディターを起動すれば、音作りはもちろん、音色のストックや入れ替えも可能です。
エディター側でパラメーターを弄れば、接続された本体にすぐ反映する辺り、僕の大好物であらせられるToraiz AS-1とも似ています。
構成は、アナログで言うところのVCO-VCF、プラスアルファです。
ウェーブフォームはサイン波、三角波、SuperSawという定番に加え、Animoog波形のバリエーションとなるBrightやHollow ※、さらにウェーブテーブル音源としてAnimoog1とEtherwaveが選べます。
この最後の2つについては、時間軸で波形を変化できる"SCAN"に対応しています。
※最初のバージョンではBrightはAnimoog2、HollowはAnimoog3という名でSCANにも対応していた模様。
フィルター部は、おなじみのCUTOFFとRESONANCE、そしていわゆる「キーフォロー」であるPITCH TRACKの3パラメーター。
ちなみに、THEREMINIのサウンドメイクにはエンベロープの概念がありません。
電源をオンにしたところからゲートが開きっぱなしであり、発音や音階の変化に応じてトリガーが出るわけではありません。そのためエンベロープがないのです。
では、RESONANCEはあるのにエンベロープなしに、シンセ特有の「ミヨッ」という音が出せるのか?
その設定がADVANCEDメニューにあります。
ボリュームアンテナの項目に"FILTER CUTOFF"というパラメーターがあります。これでプラスマイナスを設定すれば、左手の動きに応じてフィルターが開閉し、あの「ミヨッ」を鳴らすことができます。
シンセサイザーにおける「ミヨッ」はたいていエンベロープやベロシティに紐付けられ、一度音作りをしてしまうと、変化に要する時間が決まってしまいます。
一方、THEREMINIでは左手の動きでフィルターの開閉を行えるため、ゆっくり動かせば「ミイィィヨオオォォン」にすることもできます。
また手を動かす距離によって変化量もコントロールできます
。
ちなみに右手のピッチアンテナでも、RESONANCEの量をコントロールできます。つまり音が高く(低く)なるにつれてピークをコントロールできるわけです。
左手と併用して遊ぶのも一興かと。
鍵盤型のシンセでは真似のできないフィルター弄り、THEREMINIのみが可能な芸当ではないかと思います。
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ちなみに、僕がAmazonでTHEREMINIを買ったのは今年の6/10で、その時点の価格は3万円台だったんですが、その直後から在庫があるものについては4万円台後半〜6万円台に上昇しております。どういうことよ。
3万円台で販売しているショップはたいてい在庫切れなので、少しでも安く買いたいという向きは入荷時期など要確認でひとつ。
テルミンって、いろいろ難しいのな。
テルミンについて(というかほとんどmoogのTHEREMINIのことだけど)あれこれ書き殴っておりまして、挙げ句音痴極まりないヘタクソな演奏動画なんぞを公開している手前、「お前ごときに何がわかるんだ」と言われそうですが。
困惑の呪文
さほど親しくない人と同席した時、毎度天気のハナシをするのも芸がないんで「50歳になったんで、楽器をちゃんと人前で演奏できるよう、練習しようと思いまして…」なんて振ってみると、「おお、素晴らしい!」なんて感嘆符付きで言われます。
「で、なんの楽器?」との質問を待って「ええ、テルミンです」と答えると、相手の表情がなんとも形容しがたいものとなるわけです。
例えれば、ロープに振られてラリアットかドラゴンスクリューでも来るのかと思いきや、ロープから戻ったら振った相手がコーナーポストによじ登っていた時の顔というんでしょうか。
別の例えをすれば、寝転がったアンドレ・ザ・ジャイアントを相手に、リング外へアピールする前田日明の顔というか。
ま、あからさまに「俺はどう返したらいいんだ」という困惑が見て取れるのですね。
試合が成立しない
そして会話は「へぇ、そうなんだ。へぇ」で途切れます。
「へぇ」を2回も付けたわりには「テルミンってどんな楽器だっけ?」とか「なんでそれを選んだの?」という質問は続きません。
ひとつ言えるのは「その相手がテルミンについて何かしら認知している」ということです。
とは言え、おそらく具体像はありません。その方の人生においてテルミンを積極的に知ろうと思う機会などなかったのでしょう。
「僕はギターをね…」とロープブレークするか、「明日晴れるかなぁ」などとトペのごとき空中殺法に持ち込んだり、「あ、ごめん!電話かかってきちゃった」なんて試合放棄になってしまうのです。
つまるところ、テルミンとはまだまだ楽器としてポピュラーではないのだなというのを、改めて感じる次第です。
無論、こうした反応が返ってくると想定した上で話しかけているのですが。
世界最古が新奇な理由
昭和を通じて日本人100人中100人が知らなかったテルミンが、「あー、アレね」くらい認知されるようになったのは、2001年の映画『テルミン』公開前後から、2007年の『大人の科学 テルミンmini』の爆発的ヒットにかけての期間だと思います。
「世界で最も古い電子楽器」のテルミンは、日本においてまだまだ新奇な楽器なのです。
そしてこの期間、様々なミュージシャンがメディアでテルミンについて語ったり実演したりと、その普及に大きな役割を果たしました。
ただここで言う「大きな」とは、決して「大ヒットに貢献した」という意味だけではありません。逆の意味も含みます。
先ほど書いた「新奇」という言葉の「奇」を助長するようなこともあったと思われるのです。
ミュージシャンたちは「テルミンとはどんな楽器か」を説明する際に、「自分はこんなスタイルでテルミンのライブやってます」という別方面のプロモーションが発生して、残念なことに「変わった人のやる楽器」という印象が付いてしまうケースもよく目にしました。
メディアによっては、あえてスピリチュアリストのごときイロモノで扱ったものもありました。
取材VTRを見たスタジオのひな壇タレントが半笑いになってたりして、端的に言えば「あーあ、やっちゃった感」が否めません。
奏法の不統一
こうした状況を、ロシアで学ばれ教室を開いて普及に努めていらっしゃる竹内正実さんはどう考えていたのでしょう。
僕は竹内さんが2002年に発表された『テルミンを弾く』(岳陽舎刊)という教則本を演奏のバイブルとしていました。
仕事が忙しく、名古屋でも開かれていた竹内さんの講座へ通うのは断念しましたが、テルミンを弄る際は思い出したように引っ張り出して、何度も読み込んだものです。
今でもTHEREMINIを弾く際は、まずクローズポジションをとり、手の関節を痛めないよう指を滑らせて音階をなぞる竹内さんの指導法に則っているつもりです。
ところが動画で多くの演奏が見られる昨今、テルミンプレーヤーたちが手の甲の角度を変えたり、拳を突き出して弾いたりと、その奏法が様々であることに驚きます。
作法から自由であることは大いに尊重したいのですが、その自由の元となる作法をそもそも知らねぇんじゃないんですか、と思われる方も多数です。
メロディを奏でるというより、パフォーマンスツールの枠を抜けきっていない演奏動画をよく見ますが、楽器の魅力を全く引き出せておらず、残念な印象を受けることも多々あります。
テルミンの奏法はギターやピアノに比べてさほど難しいものでもなく(個人的な感想です)、慣れれば譜面が読めなくても、鼻歌気分でメロディを奏でられます。
つまりは非常に便利な楽器なのです。
元祖"調教"楽器
ところで、ここ10年「初音ミク」に代表されるボーカロイドが人気です。
なぜここまで人気になったのかと言えば、それはユーザーたちの創意工夫に他なりません。
ボカロソフトを起動して単に歌詞とメロディを打ち込んだ状態では、なんの面白みもありません。
歌詞によっては発音が甘い場合も多々ありますし、Googleマップのナビの方がよっぽど愛らしく思えます。
この機械的な発音や発声に、作為的なズレや抑揚をつけたり、あるいは本来人間の発音ではありえない子音をコマンド的に付加することで、より人間らしく発声させることを「調教」と言います。
調教の結果、同じソフトを使って同じ曲を歌わせてもニュアンスに差が出て、何人もの「俺だけのミク」が誕生するのです。
実はテルミンも同じような「調教」のしがいのある楽器です。
味も素っ気もない波形に、ポルタメント、ビブラートや音量コントロール、あるいは譜面にない音階を加えることによって、人間的な個性を創出するわけです。
完成度の高いテルミンの演奏は時に「女性のハミングのよう」と形容されることがありますが、これも奏者による「調教」の賜物なのです。
この楽しさは、基本的な演奏技術があって享受できるのであって、単なる自己流ではいつまで経っても得られないものだと思います。
気軽に買えない
そしてテルミンを最も「市民権」から遠ざけているのが、「気軽に買えない」という問題です。
僕の買ったTHEREMINIは2014年に発売され、日本の多くの楽器店で購入できる最新のテルミン※ですが、ネット通販で名の知れた楽器店を見つけて発注すると「在庫がございません」。
さらに別の大手に注文すると「次回入荷の予定が立っておりません」との返信。
発売から5年です。売れて売れて在庫がないわけではありません。
またTHEREMINIは注文を受けてから、職人がカナダの大木を切りに行くような一品モノでもありません。
そこそこ名の知れた楽器なのに、最新商品ですらこの有り様。
これじゃ普及するわけがありません。
Wikimedia Commons
また著名なアーティストがメディアに登場する際は、決まってBig BriarのModel 91Aを伴うのですが、コレ、いま調べてもどこにも売られていません。
仮に買えたとしても、軽く乗用車並みの値がつくのではないでしょうか?
このModel 91Aは、学研テルミンminiのモデルとなったことでもわかるように、多くの人がイメージするテルミンの象徴的存在です。
www.korg-kid.com/
一方でボブ・モーグが開発した廉価版"Etherwave"がいくら優れていても、あの薄い筐体を見てテルミンだとわかる人は、一般的に多くないと思います。
これは竹内さんの著書にもあるんですが、「演奏用に購入するなら、最低レベルでEtherwave」というのがこの界隈の常識になっています。
しかしこのままでは、一生この「最低レベル」で終わる人の方が圧倒的に多いでしょう。
2019年6月現在、このEtherwaveこそ新品で手に入る最高級のテルミンでもあるのです。
プロによるModel 91Aの演奏を見て「テルミン弾いてみたいな」と思っても、そのテルミンは既に市場から消えている。
これは普及の面から見るとマイナスではないでしょうか?
どうせなら、これからメディアに出る人は堂々とEtherwaveで演奏して、価値の向上に寄与いただきたいものです。
※ベテランからは「テルミンとは認めない」という声もある。まあ気にしないこった。