PROMARSの謎。
RolandのPLUG-OUTシンセ第3弾となった"PROMARS"。
予想外に音が良く「そのうちポチるでしょ、きっと」と思いながら体験版で遊んでいるわけですが、使ってるうちに実機のことがどうにも気になって、動画ポータルの実演はもちろん、Rolandの公式サイトから取扱説明書をダウンロードしたり、発売時のカタログを読んだりしてみたわけです。
"PROMARS"は、同社初の本格的ポリフォニックシンセ"JUPITER-4"と同時発売されたこと、レイアウトや筐体に共通点が多いこと、さらに198,000円という価格から、発売当時は単体モノフォニックシンセの最高峰に位置づけられたのではないかと推測します。
ところが、PLUG-OUT版を弾いてみて、あるいは実機の演奏動画を観ていて、どうにも腑に落ちない点がいくつかあったので書き出してみます。
まず実機ではVCOのパルス・ウィズ・セレクト、およびVCFの"KYBD FOLLOW"が4段階スイッチになっている点。
これ、同時発売されたJUPITER-4もまったく同じなんですよ。
入門用でもあるSHシリーズではどちらもスライダーで可変できてるわけですから、わざわざ段階的にする理由が謎です。
もちろんPLUG-OUT版ではノブで滑らかに設定できます。
それからVCO1とVCO2が同じ波形である(VCO2はチューニング以外の設定がない)点。
あくまでスペックだけで捉えるとSH-2の方が自由度高いやで~という風にも見えます。これもJUPITER-4と同じ。というより、逆にポリフォニックシンセであるJUPITERの音作りでいくつも波形を重ねる方が不自然なわけで、"PROMARS"がその回路をベースに設計されたことが想像できます。
さらに"PROMARS"最大の謎と言えるのが、他のシンセで見たことのない"DELAY/BEND"なるセクション。
1979年の総合カタログには下記のように説明されています。
LFOのレイト、ウェーブ・フォームをコンピュ・メモリーさせ、そのLFOの速さを後で調整するLFOベンド・コントロール、ディレイ・タイムを備えています。またノーマル/ワイズ切替スイッチは、チャイム的なリング・モジュレーター・サウンドを出せるなど多彩な音の味付けができる機能です。
(Roland 総合カタログ Vol.5より;フォント強調は筆者による)
引用部前半について補足すると、実機ではいったんメモリにセーブしたパラメーターを後で変更することが出来なかったようです。
そんな中、セーブ後にLFOのパラメーターを変えるために設けられたのが、この"DELAY/BEND"のようです。引用箇所にある「ノーマル/ワイズ切替スイッチ」というのは、LFOの周期幅を極端に変えるためのものです(実機パネル表記は"NORM/WIDE"とある)。
PLUG-OUTのプリセット・パッチや実機を演奏した動画でも、金属的なサウンドをいくつか聴くことができますが、その正体はこのスイッチを"WIDE"モードにすることで得られる、超高速LFOによる変調だったわけです。
このスイッチ、PLUG-OUT版には存在しません。しかし…
"LFO BEND"と"RATE"を動かしてみると予測のつかない変化をします。
設定次第で金属的にもなるし、ノイズも発生するし…計算して作れる音色ではないんですが、ただひとつ言えるのは、PLUG-OUT版にも"WIDE"モードがあらかじめ反映されている、ということでしょう。
しかしこのセクション、どういう経緯で作られたのかが最大の謎でして、あらかじめ計算されていたのか、ケガの功名で音作りの幅が広がったのか、おまけにその過程でなぜ周期幅を拡幅したのか、妄想が止まりません。そして"PROMARS"が後継も得ずに孤高となった秘密が、このパラメーターに込められてるかもしれません。いや、ホント謎です。どなたか詳しい方、ご教授くださいませ。
ちなみに実機でセールスポイントのひとつだったプリセット音も、しっかりPLUG-OUT版に継承されていました。
最後の”1979”で始まる10個のパッチが、実機に収められていたようです。
36年の時を経て聴くと、なかなか味があるサウンドで使えますコレ。
(追記)SYSTEM-1にPLUG-OUTした体験版PROMARSは、時間に関係なく正常に使用できます。が、電源を落とすと影も形もなくなりますので念のため。