sh101's blog

ちょっとお小遣いを貯めればなんとかなるシンセを語る日々

高橋ユキヒロ、再起動。

先日のYMOベスト盤『NEUE TANZ』が巷でHOTな中、高橋幸宏さんのファースト・ソロアルバム『Saravah!』が復刻されました。

いや、復刻というのは正しくないか。

1978年に収録されたバックトラックはそのままに、ヴォーカルを40年ぶりに新録、ミックスダウン&マスタリングされました。
アルバムタイトルも『Saravah Saravah!』としてリブートされたわけです。まあ『シン・ゴジラ』のようなものですかね違いますね。

そしてアーティスト名は「高橋ユキヒロ」。38年ぶりの表記復活です。
そりゃね、「高橋幸宏」で検索したって出てきやしねぇってもんです。

Saravah Saravah !

Saravah Saravah !

このアルバム、小生にとってはYMO界隈を何十年も聴き続けることになった動機のひとつでもあります。

YMOブームの最中、小学6年生だったアタクシは、FMラジオでユキヒロさんのソロ曲を聴き、ネスカフェも真っ青のヨーロピアブレンドっぷりに「えっ、テクノじゃないけどすげぇカッコいい!」と感動したわけです。ところが曲終わりにタイトルを言わなかったのです、クソDJが。

ひとまずレコード店に貯金を全額持参し、当時リリースされたアルバム『NEUROMANTIC』を購入したわけですが、ついぞこの曲は発見できず。
無論このアルバムも傑作ではありましたが、「その日は、みんなでネ。」じゃねーだろ、いつ来るんだよ、俺があの曲を聴ける「その日」はよぉ…と帯を見ながら悲嘆に暮れておりました。

それから中学に上がり、若干お小遣いも増額され、メンバーのソロ作を買ったり友人にダビングを依頼してるうちにようやく出会ったのがオリジナル版『Saravah!』。
僕がFMで知った曲は「LA ROSA」でした。

『Saravah!』はサディスティックスが空中分解しつつ、YMOに加入したばかりのユキヒロさんが多数の友人を招き、坂本教授にアレンジを託して完成させたわけですが、ほぼスタジオミュージシャンによる生演奏。

YMOに向けた習作の色濃い「MOOD INDIGO」も教授の手弾きなんだそうで、まあ才能爆発ですな。

本作と後にスネークマンショー『戦争反対』で発表される「今日、恋が」など、坂本教授の生オーケストレーションと幸宏さんのコラボに外れなし。

今日、恋が

今日、恋が

暑苦しいジプシー・キングスでおなじみの「VOLARE」やレゲエアレンジで再構築された「C'EST SI BON」といったカバー楽曲のセンスもバッキングも素晴らしく、細野晴臣さんの『泰安洋行』に並ぶシティポップス、いや加工貿易ポップス(©北中正和)の傑作として手離せない一枚です。

なお、ヴォーカリストとしてのユキヒロさんは、サディスティックス時代の甘い声から「フーマンチュー唱法」へのミッシングリンクともいうべき、抑揚を抑えた低音気味の歌唱を披露し、この時期独特の雰囲気がありました。

それから40年後に新録されたヴォーカルは、80年代初頭に会得したブライアン・フェリー直系(爬虫類系)節回し、90年代の「幸せひとり占め」「三国一の幸せ者」「思わず幸せになってしまいました」の大人の恋愛三部作を経た、健気で繊細でシニアエイジで抑揚アッパーとなっており、かなり印象が異なります。
メロディラインの起伏が激しい「BACK STREET MIDNGHT QUEEN」はその真骨頂かと。

30数年も聴いてきたこともあり、まだ慣れてないゆえところどころで「あれ?」と思う節回しも正直ありますが、当時のキーそのままなのにオリジナルよりハイ気味で歌える60代ヴォーカリストはなかなか稀有だと思います。再結成して日本で稼ぐ老いぼれバンドどもに聴かせてやりたいですわ。

新たにマスタリングされた音像は、オリジナル盤にあったハモンドやエレピなどの中低域のモゴモゴが整理され、ステレオ分離もよりクリアに。ミュージシャンたちの往年のプレイを存分に楽しめます。

教授による唯一インストの「ELASTIC DUMMY」も多分に漏れずクリアに蘇っております。松木恒秀さんや和田アキラさんもセッションに加わっているのか、70's大野雄二感濃厚でそのまま70's日テレのバラエティに使えそうですな。

で、僕をポップスに引きずり込んだ「LA ROSA」ですが、よく聴くと若干音数が整理されているようで、Aメロのバックにいたハモンドがミュートされていたり、同じくハモンドソロの歪みが抑えられていたりします。この辺りはマスタリングではなく、ミックスで手が入れられているんだろうなと。

いずれにせよルーツ音楽を臆せず晒したソロ作があるからこそ、我々も界隈で豊富な音楽体験をさせていただけるわけです。ああ有り難や。

ちなみに11月にはオリジナル『Saravah!』もリマスタリングで再発されるとのこと。

こうなると『音楽殺人』のリマスタリングにも期待してしまう、そんな2018年の秋であります。